岩手県 — 遠野
柳田国男『遠野物語』(1910)を底本に、118話を掲載しています。話番号は原典の番号です。掲載方針により1話を載せていません。
- 第一話遠野郷の由来と地勢遠野郷は陸中上閉伊郡の山々に囲まれた平地で、一町十ヶ村からなる。かつて一円の湖水であったものが猿ヶ石川となって人界に流れ出し…
- 第二話早池峯三山女神伝説早池峯・六角牛・石神の三山は、母なる女神が三人の娘を連れて訪れた際、夢見の吉凶で山を分け与えたことに由来すると伝えられる。末…
- 第三話山中の黒髪の女と山男猟師佐々木嘉兵衛が山中で長い黒髪の女に遭遇し、これを銃で撃ち倒す。験にその髪を切り取って持ち帰る途中眠り込むと、丈高い男が現…
- 第四話笹原を行く穉児連れの女山口村の吉兵衛が根子立山で笹を苅っていると、穉児を背負った美しい女が笹原の上を歩んで近づき、そのまま目の前を通り過ぎて行った…
- 第五話笛吹峠の山男山女出没海岸方面への近道であった笛吹峠は、山中で山男や山女に出逢うとの噂が広まり人々に怖れられ、次第に往来が絶えた。ついに遠回りの境…
- 第六話長者の娘、山男の妻となる青笹村糠前の長者の娘が物に取り隠されて長らく行方知れずとなっていたが、猟師が山中で偶然彼女に再会する。娘は山に住む者にさらわ…
- 第七話五葉山中で再会した娘上郷村の娘が栗拾いに出て失踪し、家では葬式まで行ったが、数年後猟師が五葉山の岩窟で彼女に再会する。娘は眼の色の異なる丈高い人…
- 第八話寒戸の婆、風の日に帰る松崎村寒戸の娘が梨の木の下に草履を残したまま行方知れずとなり、三十年余りを経て老いさらぼった姿で不意に帰って来た。人々に逢い…
- 第九話大谷地の谷底より呼ぶ声笛の名人菊池弥之助が仲間と境木峠を越える途中、笛を吹きながら大谷地の上を過ぎると、深い谷の底から「面白いぞー」と高い声で呼ぶ…
- 第十話山小屋で聞いた妹の叫び奥山で茸採りのため小屋に宿った男が、深夜に遠くで女の「きゃー」という叫び声を聞き胸を轟かせた。里に帰ると、まさに同じ夜同じ刻…
- 第十一話嫁姑の争いと孫四郎の凶行嫁姑の不和から、倅の孫四郎が母を殺そうと大鎌を磨ぎ、家中の戸を閉ざして母を追い詰め斬りつける。母はかつて深山で聞かれたのと同…
- 第十二話昔話を伝える乙爺土淵村山口の老人新田乙蔵は村の館の伝記や家々の盛衰、山の伝説や山に住む者たちの物語などを最もよく知る人物であったが、老いて病…
- 第十三話峠に住んだ老人の生涯数十年を山中の峠の小屋で独り暮らした老人は、若い頃に財産を失って以来世を捨て、甘酒を売って生計を立てていた。時折町へ出ては酒…
- 第十四話オクナイサマとオシラサマの祭祀旧家(大同)には桑の木で作った神像オクナイサマを祀り、正月十五日に里人が集まり祭る。同様にオシラサマも祀られ、神像に白粉を塗…
- 第十五話オクナイサマ田植えの奇瑞田植えの人手が足りず困っていた阿部家に、見知らぬ小僧が現れ手伝い、日暮れまでに田植えを終わらせた。小僧は姿を消したが、縁側に…
- 第十六話コンセサマとオコマサマコンセサマを祀る家も少なくなく、その神体はオコマサマによく似る。オコマサマの社は里に多く、石や木で男根を模した像を奉る風習が…
- 第十七話ザシキワラシの目撃談旧家にはザシキワラシという十二三歳ほどの童児の神が住むという。今淵家では帰省中の娘が廊下で男の子の姿を見て驚き、佐々木家では…
- 第十八話座敷童子の去った家の没落旧家山口孫左衛門の家には二人の童女の神が住むと伝えられていたが、ある男が橋のほとりで見馴れぬ二人の娘に出会い、孫左衛門の家か…
- 第十九話毒茸による一家全滅孫左衛門の家で梨の木のまわりに生えた見知らぬ茸を、水桶でよくかき混ぜれば中らぬという言に従い一同で食し、七歳の娘一人を除き家…
- 第二十話蛇の祟りと蛇塚凶変の前、秣を掻き回した際に大蛇が現れ、主人の制止を聞かず打ち殺したところ、その後も多くの蛇が出てきて男たちが面白半分に皆殺…
- 第二十一話孫左衛門と稲荷の狐学者肌の孫左衛門は狐と親しんで家運を富ませようと、庭に稲荷の祠を建て京都で正一位の神階を得た。日々油揚げを供え続けると狐は馴…
- 第二十二話死せる祖母の幽霊佐々木家の曾祖母が死去した夜、通夜の座敷にいた母と祖母は、裏口から歩いてくる亡き老女の姿を見た。生前そのままの着物姿で炉端の…
- 第二十三話逮夜に現れた老女の霊二七日の逮夜、念仏を終えて帰ろうとした人々が門口の石に腰掛ける老女を見たが、それは亡くなった人物の後ろ姿そのものであった。多…
- 第二十四話大同という旧家の由来村々の旧家を大同と呼ぶのは、大同元年に甲斐国から移り来た家であるためという。大同は田村将軍征討の時代であり、甲斐は南部家の本…
- 第二十五話門松片方を伏せる由来大同の祖先がこの地方に到着したのは歳の暮で、門松を片方しか立てぬうちに元日になった。そのため今もこの家々では吉例として門松の…
- 第二十六話阿倍氏彫刻の名人旧家柏崎の田圃のうちと呼ばれる阿倍氏は聞こえた旧家である。その先代に彫刻の巧みな人があり、遠野一郷の神仏の像には多くこの人の作が…
- 第二十七話池の端の黄金石臼閉伊川で若き女に手紙を託された池の端家の先代が、六部の教えで手紙を書き換えて届け、礼に小さな石臼を得た。臼は米を入れて回すと…
- 第二十八話早池峯の化け物坊主退治早池峯に初めて山路をつけた附馬牛村の猟師が仮小屋で餅を焼いていると、大きな坊主が現れ餅を欲しがり食べた。翌日餅に似せた白石を…
- 第二十九話鶏頭山の天狗と黄金天狗が住むと言われ早池峯参りの者も避ける鶏頭山に、無法者で知られる男が賭けで登った。頂上の岩の上で金銀を広げていた大男三人に…
- 第三十話早池峯で寝る大男小国村の男が早池峯へ竹を伐りに行くと、地竹の茂みの中に大きな男が仰向けに寝て高いびきをかいていた。傍らには地竹で編んだ三尺ほ…
- 第三十一話異人にさらわれる子女遠野郷の民家の子女で、異人にさらわれて行方知れずになる者が毎年多くある。ことに女に多いという。
- 第三十二話千晩ヶ岳白鹿と死助権現千晩ヶ岳の沼は物凄く生臭い谷で、昔隼人という猟師が白鹿を追って千晩こもったことから山の名となった。鹿は片肢を折りながら次の山…
- 第三十三話白望山の怪光と幻の黄金白望の山で夜を明かすと深夜あたりが薄明るくなり、谷の彼方で大木を伐る音や歌声が聞こえることがある。茸採りの者が山中で金の樋と…
- 第三十四話離森長者屋敷の女白望の山続きにある離森の長者屋敷は無人の地で、ここで炭を焼く者が夜、小屋の垂菰をかかげて中を窺う髪の長い女を見た。このあたり…
- 第三十五話白望を走る女佐々木氏の祖父の弟が白望で茸を採り宿った夜、谷を隔てた森の前を女が中空を走るように行くのを見た。女が「待てちゃア」と二声ほど…
- 第三十六話猿と御犬の経立猿の経立や御犬(狼)の経立は恐ろしいものである。山口村近くの二ツ石山で雨の日、下校中の子どもが岩の上に御犬がうずくまり、代わ…
- 第三十七話狼の群れと火除け境木峠と和山峠の間では、昔は駄賃馬を追う馬方が夜道でしばしば狼の群れに遭遇した。二三百もの狼に取り囲まれた際は火を焚いて防い…
- 第三十八話酔いに誘われた狼禍小友村の旧家の主人が酒に酔い、御犬(狼)の遠吠えを真似たところ、狼が後をつけて来た。恐ろしくなり門を固く閉ざして家に籠ったが…
- 第三十九話狼に食われし鹿佐々木君が幼い頃、祖父と山から帰る途中、村近くの谷川の岸で横腹を破られたばかりの大鹿の死骸を見つけた。祖父はこれを狼が食い殺…
- 第四十話狼の擬態と毛色草の丈が三寸ほどあれば狼はその中に身を隠すことができるという。また狼の毛の色は季節ごとの草木の色の移ろいに合わせて変化してい…
- 第四十一話峠を越える狼の大群和野の佐々木嘉兵衛が境木越の大谷地へ狩に出た秋の暮れ、向こうの峯から何百とも知れぬ狼の群れが押し寄せるのを見て恐ろしさに樹に…
- 第四十二話狼退治と鉄の最期六角牛山麓の萱山で飯豊村の者が狼の子を三匹見つけ二匹を殺して一匹を持ち帰ったところ、以後この村の馬ばかりが狼に襲われるように…
- 第四十三話熊と組討ちの逸話上郷村の熊という男が友人と六角牛山へ雪の日に狩に出て大きな熊と出会い、銃を捨てて抱きつき谷川まで転げ落ちた。熊の下敷きになり…
- 第四十四話笛吹く男と経立六角牛の峯続き、橋野村の金坑で炭焼きをしていた笛の上手な男が、昼間小屋で仰向けに寝転び笛を吹いていると、小屋の入口の菰を掲げ…
- 第四十五話経立の姿と習性猿の経立は人によく似た振る舞いをし、女色を好んで里の婦人をさらうことが多いとされる。毛には松脂を塗ってその上に砂をつけている…
- 第四十六話経立と鹿撃ちの誤認栃内村林崎に住む今五十近い男が、十年余り前に六角牛山へ鹿撃ちに行きオキ(鹿笛)を吹いたところ、猿の経立が本物の鹿と思い違え地…
- 第四十七話子供脅す経立の噂この地方では子供を叱る際に「六角牛の猿の経立が来るぞ」と言うのが常套句であった。実際この山には猿が多く、緒の滝へ行くと崖の樹…
- 第四十八話仙人峠のいたずら猿仙人峠にも猿が多く棲んでおり、通行人にじゃれついたり石を投げつけたりするいたずらをすることがあるという。
- 第四十九話仙人堂の怪異記録仙人峠の中腹には仙人を祀る堂があり、旅人がこの山中で遭遇した不思議な出来事を書き記す習わしがある。髪を垂らした若い女に出会い…
- 第五十話死助山のカッコ花死助の山には遠野郷でも珍しいカッコ花が咲く。閑古鳥が鳴く五月ごろ、女や子どもが山へ採りに行き、酢に漬けて紫色にしたり酸漿のよ…
- 第五十一話オット鳥の悲恋山中で最も寂しい声で鳴く鳥はオット鳥である。長者の娘が長者の息子と山に遊びに行き、男が姿を消して見つからなかったため、娘はつ…
- 第五十二話馬追鳥と飢饉の前兆馬追鳥は時鳥に似た鳥で、長者の家の奉公人が放牧した馬一匹を見失い、探し続けた末にこの鳥になったという。「アーホー」と鳴く声は…
- 第五十三話郭公と時鳥の姉妹譚郭公と時鳥は昔姉妹であった。姉が芋の堅い部分を自分で食べ軟らかい部分を妹に与えたのを、妹は姉の方が旨い物を食べていると誤解し…
- 第五十四話淵の底の亡者の家川井村の長者の奉公人が淵に斧を落とし、水底に入ると亡くなった主人の娘の家があり、娘が機を織っていた。娘は口外しないことを条件…
- 第五十五話河童の子を孕む娘猿ヶ石川流域には川童が多く住み、松崎村の家では二代にわたり川童の子を孕んだ者があった。生まれた子は醜怪で刻んで樽に埋められた…
- 第五十六話棄てた河童の子消える上郷村のある家でも川童らしき子が生まれた。全身赤く口が大きい忌まわしい姿だったため道の辻に棄てたが、見世物にすれば金になると…
- 第五十七話河童の足跡川岸の砂の上に川童の足跡を見ることは珍しくなく、雨の翌日に特に多い。猿の足と同様に親指が離れて人間の手の跡に似ているが、長さ…
- 第五十八話馬を引く河童の捕縛新屋の家で馬を淵に冷やしに行った際、川童が馬を引き込もうとして逆に引きずられ、厩前で馬槽に覆われて捕らえられた。村人が殺すか…
- 第五十九話赤い顔の河童目撃他所の川童は顔が青いというが、遠野の川童は顔が赤いとされる。佐々木氏の曾祖母が幼い頃、庭の胡桃の木の間に赤い顔の男の子を見た…
- 第六十話狐に化かされた猟師和野村の嘉兵衛爺が雉子小屋で待っていると、狐が繰り返し現れて雉子を追い払う。憎く思い狙って引金を引いたが火が移らず、銃を調べ…
- 第六十一話白鹿に化けた石名高い猟人が六角牛で白い鹿に出会う。白鹿は神とされ祟りを恐れつつ撃つが弾は当たらず、魔除けの黄金の丸を用いても動じない。近づ…
- 第六十二話山中の赤衣の怪猟人が山中で夜を明かすため大木の周りに魔除けの縄を巡らせて眠っていると、赤い衣を羽ばたかせた大きな僧形の者が梢を覆う。鉄砲を…
- 第六十三話マヨイガと黄金の椀小国の三浦家の先祖の妻が蕗を採りに山奥へ入り、誰もいない立派な家(マヨイガ)を見つけて逃げ帰る。後日川上から流れてきた赤い椀…
- 第六十四話婿が迷ったマヨイガ金沢村から栃内村へ婿入りした男が山道に迷い、前話と同様の無人の立派な家(マヨイガ)に行き当たる。話を聞いた村人たちが宝を取り…
- 第六十五話安倍ヶ城の雨の前兆早池峯山の険しい崖の中腹に安倍ヶ城という岩があり、安倍貞任の母が今も住んでいると言い伝えられている。雨が降る前の夕方には岩屋…
- 第六十六話早池峯と貞任伝説早池峯の附馬牛側の登り口にも安倍屋敷という巌窟があり、早池峯全体が安倍貞任にゆかりの山とされる。小国側の登り口には、八幡太郎…
- 第六十七話貞任の陣屋跡伝説土淵村と栗橋村(旧橋野)の境の山中、登り口から二三里の山中に広い平原があり、そこは貞任という地名で呼ばれている。沼は安倍貞任…
- 第六十九話オシラサマの起源貧しい百姓の娘が愛馬と夫婦になったことを知った父が馬を殺すと、娘は馬の首にすがって泣き、父がその首を切り落とすと娘は首に乗っ…
- 第七十話オクナイサマの由来オクナイサマはオシラサマのある家に必ず伴って祀られる神とされるが、オクナイサマのみを祀る家もある。像の形も家によって異なり…
- 第七十一話老女の秘密信仰オシラサマの由来を語った老女は熱心な念仏者だが、世間一般とは異なる秘密めいた信仰を持ち、作法を親子にも明かさぬ在家の集まりを…
- 第七十二話カクラサマの祟り栃内村字琴畑の入口の塚には、以前は堂内にあったという木の座像がカクラサマとして祀られている。子供たちが玩具のように扱い川へ投…
- 第七十三話カクラサマの木像遠野郷にはカクラサマという木像が数多くあり、栃内の字西内や山口分の大洞にも存在する。信仰する者はなく、粗末な彫刻で衣裳や頭の…
- 第七十四話カクラサマの由来と姿栃内のカクラサマは大小二体、土淵一村では三四体あり、いずれも木の半身像でなたの荒削りの無恰好なものだが人の顔とわかる。カクラ…
- 第七十五話燐寸工場に現れる女離森の長者屋敷にあった燐寸工場の小屋の戸口に、夜になると女が現れ人を見て笑うため、工場は山口へ移された。その後山中の枕木伐出…
- 第七十六話長者屋敷と埋蔵金伝説長者屋敷は昔の長者の住居跡とされ、近くの糠森は長者が糠を捨てた跡が山になったという。山中の五つ葉のうつぎの下には黄金が埋めら…
- 第七十七話跨いだ死人の幻影葬式の夜、田尻長三郎が一人遅れて帰る途中、軒下の石を枕に仰臥する見知らぬ男を見つけ、足で揺すっても動かないため跨いで帰った…
- 第七十八話雪合羽の男と死の前兆長蔵が夜遊びの帰りに門前で雪合羽を着た男に出会い、怪しんで見ると男は垣根のある方へすっと消えた。後に同じ頃、新張村の者が浜か…
- 第七十九話玄関に消えた懐手の男先代の長蔵が夜遊びから帰ると門口に懐手の男が立っており、妻への通い者かと近づくと男は玄関の隙間から中へ消えた。戸の隙間に手を…
- 第八十話田尻家の家屋説明前話の話を理解するため田尻氏の家の間取りを図示する必要があるとし、遠野一郷の家の建て方はいずれもこれと大同小異であると述べる…
- 第八十一話雲壁に寝る蒼白い男前川万吉が夜遊びの帰りに廻り縁の角で雲壁を見ると、色の蒼ざめた男がひたとつきて寝ているのを見て大いに驚き病んだが、これも何の…
- 第八十二話茶の間に立つ影法師田尻丸吉が少年の頃、便所に行こうと茶の間に入ると座敷との境に髪を垂らした人影が立っていた。手を伸ばして探ると板戸に触れるのみ…
- 第八十三話祟りのある古文書山口の大同、大洞万之丞の家は建て方が他と異なる古い家で、玄関は巽の方角に向いている。この家には開けると祟りがあるとされ決して…
- 第八十四話海岸に来住した西洋人佐々木氏の祖父が青年であった嘉永の頃、釜石や山田、船越の半島の突端には西洋人が多く来住し、耶蘇教も密かに行われ遠野郷でもこれ…
- 第八十五話白子の兄弟がいる家土淵村柏崎に、両親とも正しく日本人でありながら髪も肌も眼も西洋人のような白子の兄弟がいる家がある。二人は農業を営み、当時二十…
- 第八十六話死期に現れた父の霊豆腐屋の政の父が大病で死にかけていた頃、隣の字下栃内の地固めの堂突の場に夕方現れ、人々に挨拶して仕事を手伝い暗くなって帰った…
- 第八十七話死の直前に寺を訪れた主人遠野の豪家の主人が大病で死にかけていた頃、ある日菩提寺を訪れ和尚と世間話をして帰った。小僧に跡をつけさせると姿が見えなくなり…
- 第八十八話大病の老人が寺を訪ねた話常堅寺近くで大病を患う老人に出会い、二三日気分が良いので寺へ話を聞きに行くと言われた。和尚も出迎えて茶を出しもてなしたが、小…
- 第八十九話愛宕山で山の神に遭遇愛宕山の頂には昔から山の神が出ると言い伝えられる祠がある。和野の若者が柏崎への道中、愛宕山から降りてくる背の高い人と行き逢い…
- 第九十話天狗森の大男と若者の惨死天狗森の麓の畑で居眠りしようとした若者の前に、顔の真っ赤な大男が現れた。相撲好きの若者が挑みかかると逆に飛ばされ気を失った…
- 第九十一話山の神を邪魔した鳥御前の死山々に詳しい鳥御前が茸採りに出た際、大岩の陰で赭い顔の男女が話しているのに出くわし、戯れに切刃で打ちかかったところ蹴られて気…
- 第九十二話早池峯で山男に遭遇した子供たち早池峯に遊びに行った土淵村の子供たちが、夕方山を下る途中、背が高く色黒で目が輝く男とすれ違った。小国へ行くと答えたが方角が違…
- 第九十三話峠で子の死を告げた異人菊池菊蔵が病気の子を診に妻を迎えに笛吹峠を越えていたところ、薄暗い山道で崖の上から赭い顔で目の光る男に「お前の子はもう死んで…
- 第九十四話狐と相撲を取った菊蔵菊蔵が柏崎の姉の家からもらった餅を懐に愛宕山の林を通った際、友人の藤七に誘われて相撲を取った。何番も楽に勝ったが、別れた後に…
- 第九十五話不思議な石と昇天の体験庭作り好きの菊池某が山で見慣れぬ美しい大岩を見つけ持ち帰ろうとしたが、重さに休んで寄りかかったところ、石とともに空中に昇り…
- 第九十六話火事を予言する白痴の男遠野の町に住む白痴の男は、路上の木切れや塵を拾って嗅ぐ癖があり、時折人家に石を投げつけて火事だと叫ぶことがあった。すると必ず…
- 第九十七話傷寒の臨死体験飯豊の菊池松之丞が傷寒で危篤となった際、空中を飛ぶように菩提寺へ向かい、花咲き乱れる門内で亡き父と亡くなった子に出会う。呼び…
- 第九十八話路傍の神々の石碑早池峯山・六角牛山など山の名を刻んだ石碑や、山の神・田の神・塞の神を祀る石碑が道端に立てられる習俗があり、遠野郷よりも浜辺に…
- 第九十九話津波で失った妻の霊土淵村の福二は大海嘯で妻子を失い、屋敷跡に小屋を建てて暮らしていたが、ある夜霧の中で亡き妻が別の亡くなった男と連れ立って歩く…
- 第百話妻に化けた狐を斬る船越の漁夫が夜道で妻らしき女に出会い、化物と思い込み庖丁で刺し殺す。急ぎ帰宅すると妻は無事で恐ろしい夢を見たと語り、再び現場…
- 第百一話死人を操る狐の怪旅人が豊間根村の知人宅に泊まった夜、死人が床の上で起き上がる。よく見ると水口の穴から狐が死体を操っており、旅人はこれを打ち殺…
- 第百二話小正月の赤面の大男小正月の夜、山の神が出て遊ぶといわれ子供は外出を戒められる。字丸古立のおまさという少女が一人で福の神の遊びをして遅くなり、丈…
- 第百三話小正月に出る雪女小正月または冬の満月の夜には雪女が童子を大勢連れて現れるとされ、子供は早く帰るよう戒められるが、実際に雪女を見た者は少ない。
- 第百四話胡桃の月見占い小正月の晩に胡桃の実を炉で焼き、月ごとの天候を占う「月見」という行事があり、いずれの家でも同じ結果が出るとされ、翌日は稲の刈…
- 第百五話世中見の豊凶占い小正月の晩に種々の米で作った鏡餅を用い、翌朝餅につく米粒の量からその年の豊凶や早稲・中稲・晩稲を占う「世中見」という行事があ…
- 第百六話山田に見える蜃気楼海岸の山田では毎年蜃気楼が現れ、常に見慣れぬ外国の都市の景色が映り、人馬の往来する様子が見えるが、年ごとに形はほとんど変わら…
- 第百七話山の神より占いの術上郷村の家の娘が早瀬川の河原で見知らぬ丈高い男から木の葉を受け取り、その日から占いの術を得た。この異人は山の神の子にしたもの…
- 第百八話山の神憑依の占い師山の神が乗り移って占いをする者が各地におり、附馬牛村の木挽や柏崎の孫太郎はかつて発狂したのち山中で山の神から術を授かり、以後…
- 第百九話雨風祭の藁人形送り盆のころ、藁で人より大きな人形を作り顔を紙で描き道の分岐点に送って立てる雨風祭の風習。頭屋を選び酒宴の後、笛太鼓を鳴らして辻…
- 第百十話権現様の霊験と火伏ゴンゲサマは神楽組ごとに備わる木彫の像で獅子頭に似る。新張と五日市の組の像が争い新張のものが片耳を失った話や、附馬牛で宿を貸…
- 第百十一話ダンノハナと蓮台野の姥捨て各地にダンノハナと相対する蓮台野という地名がある。昔は六十を超えた老人を蓮台野へ追いやる習わしがあり、老人は昼間里に下りて農…
- 第百十二話ダンノハナと蝦夷屋敷の遺物ダンノハナは昔館のあった時代に囚人を斬った場所とされ、村境の丘にある。近くの蓮台野には蝦夷屋敷という凹地が多く残り石器土器を…
- 第百十三話象を埋めたジョウヅカ森和野にあるジョウヅカ森は象を埋めた場所と伝えられ、地震の折はここに逃げよと言い伝えられている。実際は人を埋めた墓で、塚の周り…
- 第百十四話館主の墓と山口孫左衛門の由来山口のダンノハナは今は共同墓地で、中央の大きな青石の下を掘った者が瓶を発見したが村の老人に叱られ元に戻された。館の主の墓とさ…
- 第百十五話御伽話とヤマハハの話遠野郷で御伽話のことを昔々といい、その中でヤマハハ(山姥のこと)の話が最も多く語られているという前置き。
- 第百十六話山姥に追われた娘留守番中の娘の家にヤマハハが入り込み食事をさせている隙に娘は逃げ出すが追われ、柴刈りや萱刈りの翁に助けられ沼のほとりの木に登…
- 第百十七話娘に化けた山姥を鶏が暴く留守中にヤマハハが娘を食い皮を被って成りすますが、翌朝鶏が「糠屋の隅を見ろ」と啼き、嫁入りの馬上でも真相を歌い続けたため両親…
- 第百十八話継子譚ヌカボの話紅皿欠皿の話も遠野郷に伝わり、欠皿にあたる娘はヌカボと呼ばれる。継母に憎まれるが神の恵みによって長者の妻となる継子譚である。
- 第百十九話獅子踊りの歌の由来遠野郷の獅子踊りに古くから用いられてきた歌曲があり、地域や人によって多少の異同がある。筆者が聞いたものは百年余り前の筆写に基…