椨屋たぶや
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一つ分の得

本作は、椨屋に記録された類型・土地・存在を題材にした完全な創作です。実在の伝承・事件・人物とは関係ありません。AIを用いて書き、編集者が選んでいます。

古物を扱うフリーマーケットに、月に二度ほど小さなブースを出している男がいた。もとは会社勤めだったが、定年を機に暇つぶしと小遣い稼ぎを兼ねて始めたもので、扱う品は近所の片付けで譲り受けた食器や古い工具、たまに紛れ込む掘り出し物の骨董まで、種々雑多だった。開場は朝六時、まだ暗いうちから軽トラックに荷を積み、両隣のブースの主とストーブを囲んで天気の話をしながら値付けをするのが、退職してからの男の数少ない楽しみだった。売り上げは良い月もあれば悪い月もあり、暮らしを大きく助けるほどではなかったが、それでよかった。妻には「小遣い程度」と笑って済ませる、それくらいの副業のつもりだった。

その日は朝から冷え込みが厳しく、客足もいつもよりまばらだった。昼を過ぎたころ、見慣れない年配の女が男のブースの前で足を止めた。上品な着物姿で、手には風呂敷に包んだ何かを大事そうに抱えている。女は風呂敷をゆっくりと解き、漆塗りの小さな重箱を差し出した。艶やかな塗りに、蒔絵の細工も見事な品だった。「これを、そちらの棚の古い時計と交換していただけませんか」と女は言う。男の棚にあったのは、もう何年も動いていない、値打ちらしい値打ちもない古時計だった。あまりに割の良すぎる申し出に男は一瞬ためらったが、女は「値打ちのわからぬ者にはただの箱にしか見えぬものですから」とだけ微笑み、返事を待たずに重箱を置いて人ごみの中へ消えていった。呼び止めようとしたが、隣のブースの主も「そんな人、通ったかね」と首をかしげるばかりだった。

男は喜んで重箱を持ち帰った。翌週、目利きの知人に見せたところ思いがけない高値がつき、あっという間に買い手も見つかった。久しぶりにまとまった実入りがあり、その夜は妻と少し贅沢な夕食にした。妻は「たまにはこういうこともあるものね」と笑いながら、食後に指輪をはめ直していた。

ところが、それからしばらくして、家の中から小さなものが一つずつ消えるようになった。まず妻の指輪、次に亡くなった父の形見の万年筆、さらに子供の頃から男が大事にしていた置物。妻は「どこに置いたか忘れたのかしら」と最初は自分を責めていたが、いくら探しても見つからない。盗まれたにしては荒らされた跡もない。値段にして換算すれば、ちょうどあの重箱で得た利益に見合うだけの品々が、月に一つずつ、静かに家から失われていった。

男はこのことを誰にも打ち明けなかった。妻が「最近、物がよく無くなる気がする」とこぼした時も、あの日の重箱のことは口に出せなかった。何かを言おうとするたび、あの女の「値打ちのわからぬ者には」という言葉が耳の奥で繰り返され、結局は「そういう歳になったんだろう」とごまかすだけだった。

それでもフリーマーケットへ通うのだけはやめなかった。あの女がもう一度現れたら、今度こそ断ろうと思っている。だが荷を積み込む早朝の暗がりの中、消えていったものの数をふと指折り数えながら、男はまだどこかで帳尻が合っていないような気がしている。